3丁目までの冒険 4
翌朝、早々に買い物を済ませたωたちは、既に駅に到着して鉄道列車を待っていました。
「…」
駅のトイレから出てきた二人は、そのトイレの入り口付近に置かれている蓋つき木箱を発見しました。宝箱のようにしっかりとした造りのさほど大きくはないそれを、二人はじっと見下ろしました。
「ねぇ、α」
「ん?」
「こういう箱ってさ、開けると薬草とかお金とか聖剣とか入ってるよね」
「だよな、俺もそう思う」
二人とも、RPGのしすぎです。
「開けるか」
「最低でも薬草は欲しいね」
二人は期待に胸を膨らませ、木箱の蓋に手をかけました。しかし蓋はびくともしません。
「あれ~?」
「っかしーなー」
二人は箱を押したり引いたり、あらゆる手を使って蓋を開こうとしました。しかし、蓋はびくともしません。
『…あ、わかった』
しばらく後、二人は同時にポンと手を叩くと、ωは剣を、αは拳を構えました。
『壊すタイプなのか』
「違う!!」
見事なシンクロを見せたωとαでしたが、ρの一閃によってそれは終わりました。一閃とは俗にいう、ツッコミ(叩)です。
「いてっ!何すんだよρっ」
「馬鹿かおまえらはっ!」
「え~っ、だってゼ○ダの伝説では壺とか壊してたよ」
「ここは○ルダの伝説の中じゃないだろ」『ゼル○以外でも、冒険物では箱の中は覗くんだっ』
再び綺麗にハモった二人に、ρはもう一度ツッコミ(叩)をお見舞いしてあげました。
叩かれた頭を二人が押さえていると、中年のオジサンが慌てた様子でこちらに駆けてきます。
「え~っと、箱はどこだ?箱…あ、あった!!」
ωたちの足元にしゃがみ込み、木箱を大事そうに抱えると、
「これ僕のなんです!でわっ」
ペこりと頭を下げ、到着したSL風の列車に乗り込みました。
…列車?
「早くーっ」
「やべっ、急げ!!」
急かすななに手を振って、ρとαは慌てて(ωだけはのんびりと)列車に乗り込みました。
余談ですが、木箱の中身はアイドル雑誌の束でした。箱を開けたオジサンは座席にアイドル雑誌を積み、鼻歌を奏でながら読み耽っていました。
「あと30分もすれば、やっと3丁目に着くわね」
自分の手札を眺め、どれを捨てようか考えながらななは言いました。
「やーっと着くのか~っ。…あ、それパス」
ななと向かい合わせに座っているαは、たった1日の旅の間に起こった出来事を思い返しました。…うん、K-1は面白かった。(回想終了)
「ようやく本来の目的に近づいたな」
ななが出したダイヤのJの上にハートのAを重ね、ρはほうっとため息をつきました。
「このままうまく行けばいいね~。はい、ジョーカー」
「うっ」
柔らかい笑顔を浮かべつつ、ωはおどけたピエロのカードを出しました。ρの頬が明らかに引きつります。
「ちっ、やっぱりωがジョーカーを持ってたか」
「えへへ」
「…みんな、もう少しだよ。がんばろ」
ぽつぽつと激励の言葉をこぼし、ななの隣に座るみずきは最後のカードを出しました。スペードの3。ジョーカーにだけ勝てるカードです。
「おしまい」
「みずき強いね」
ωは少し残念そうに唇を尖らせました。子供らしい表情。
(よかった)
その様子にななはほっとしました。(元気あるじゃない)
微笑みを浮かべて窓の外をふと見ると、景色が流れるスピードが少しずつ遅くなっていくのがわかりました。
どうやら駅に停まるようですが、目指す3丁目はまだ先です。
思ったとおり、列車はやがて駅に停車しました。扉が開くと同時に、数人のまとまった乗客が入ってきます。
その先頭に立っている人物に、ななは目を丸くしました。
(…天使?天使なの??)
見た目は、まだ二十代そこそこの若い男性です。うなじまで伸びた茶髪と白い肌が中性的な美しさを醸しだしていますが、ななはその美を天使に例えたのではありません。
彼は文字通り、天使の服を来ていました。
白いゆったりとした衣はくるぶし辺りまで届き、背中にはやや小さめながらも精巧な造りの真っ白な羽が生えています。頭にはちゃんと金色の輪もはめられています。
まさに、天使。
彼の容貌に似合っているのが唯一の救いでした。一歩間違えれば変態コスプレヲタでしょう。
しかし、それだけではありませんでした。驚くのはまだ早かったのです。
今やななだけでなく乗客全員の注目を集めるその男に、ωはゆらゆらと手を振りました。
「お父さんだ~」
…えええええ!!?
「あ!!ω~!!」
天使男はωを見つけると満面の笑みで腕を左右にぶんぶんと振り返しました。