3丁目までの冒険 7

 ルナは何かを覚悟したかのように、ふーっと息を吐きました。

「…ω」

「なに?」

「…本当は使いたくなかったんだかな。これを見ても、できれば嫌わないでほしい」

 ルナは上空に片手を伸ばし、叫びました。

「―散弾夜さんだんやっ」

 ルナの手の平から、濃い紫のオーラが溢れ出しました。黒にも似たそのオーラは天を貫き、雨のように降り注ぎます。雨が止むと、霧はすっかり晴れ上がっていました。

「―!!」

「やはり驚くだろうな。見てわかったと思うけど、あちきは魔族だ」

 絶句するωに、ルナは悲しい笑みを浮かべました。魔族だと知り、驚き怖くなったと思っているのでしょうか。

 しかし、ωが絶句したのは、『3丁目に近いこの場所に』魔族がいることです。

「あ、あのさぁルナ」

 αも同じことを考えているのでしょう。少し声がうわずっています。

「ル、ルナってどこに住んでるんだ?」

「え?…3丁目過ぎの洞窟だが」

 やっぱり。

 ωの背後で、ρがため息をつきました。

「…どうした?」
「ううん、何でもない」

 ねぇ、ルナ。―ωはふわりと微笑みました。

「僕は、ルナが魔族でも気にしないよ。αもρも、ね」

「そーだそーだ!!大体そんなこと気にしてたら、この犬耳男はどうな、」

「誰が犬耳男だ!!」

 ρはαに怒りの鉄槌(拳)を撃ち込みました。

「…本当か?」

「うん」

 ωは強く頷きました。嘘は一つもついていません。驚きはしたものの、ルナは『3丁目の魔族』ではなく、ルナなのですから。

「ありがとう」

 照れているのか、ルナはふいっと顔を背けます。

「…あ」

 ルナが目を向けた遥か先に、大きな桜の木がありました。薄桃色の花が満開に開き、大きさだけでなく美しさにも目を奪われます。

「…思い出した」

「何?」

「あの桜の木、根元に穴があいているんだ。中は意外と広い。数人くらいなら余裕で入れる程にな」

 ω、α、ρの3人は桜の木を見つめました。

 あそこに、ななとみずきが。

「行こう」

 ωはきっぱりと言いました