3丁目までの冒険 最終回

 ω父の話によると、事の顛末はつまりこういうことでした。


・“七色の世界”は、3丁目近くの洞窟に魔王がいるという情報を聞いた。

・そこで、団長であるω父とエリート団員たちが『魔王討伐』に向かった。

・娘の近くで戦うのは危険、と判断した魔王は逃げ出した。

・ω父たちはそれを追った。

・3丁目で魔力を感じられなくなったのは、魔王が逃走して魔力が極端に薄くなったからだと思われる。


「ん。まぁそんなところだね」

 説明を終えたω父は満足げに頷きました。

「むぅ…ルナには寂しい思いをさせてしまったな」

 魔王はシャープな顎に手を当て、うーんと唸りました。

「ルナ、すまなかった。俺がいない間、お前はどれだけ寂しい思いをしていたことか」

 魔王は深く嘆き、ルナを抱き寄せます。

 ω父は自分を棚に上げて、「親バカだなぁ」と呟きました。

「…ううん。お父さん、いいんだ」

 ルナは幸せそうに魔王に体を預け、首を振りました。

「寂しかったけどさ…あちきにも、友達ができたから」

 そう言って、ωたちに向かって微笑みます。

 魔王が“七色の世界”に追われなければ、ルナが動物たちを捕まえることもありませんでした。

 そして、もしそれがなければ、ωたちが彼女と出会うこともなかったのです。

 運命って不思議なものなんだね―ωはつくづくそう実感しました。

「おおそうか!!ルナに友達ができたか!!」

 魔王はルナの頭を撫で、心底嬉しそうな笑顔を見せました。

 そして、衝撃的な一言を吐きました。


「じゃあ、世界征服は無しだな!!」


 事の顛末に、付け足すべき事が一つ。

 魔王は魔王らしく、世界征服を狙っていました。

 しかし、『ルナの友達がいる世界なら』と、どうやら世界征服を止めることにしたようです。

 つまり、ωたちは図らずも世界を救ったことになります。

“七色の世界”団員たちは大喜びし、さすが団長の息子だ、救世主だとωたちを褒めたたえました。

 ωたちにとって、そんな事は心底どうでもいい話でした。


 ωたちにとっては、ただ『友達ができた』というだけの話なのですから。

 

「ω!!」

 日曜日の午後、お母さんは相変わらず書類に何かを書き込みながらωを呼びます。

「は~い」

「ちょっと、この書類を5丁目のタナカさんに届けて!!」

 ωはボストンバッグを手に提げ、剣を背負って颯爽と答えました。

「無理。今日は友達の家に行くって言ったでしょ?」

「え、ああ、そうだったわね」

 母は約束を思い出し、頷きます。

「気をつけてね。帰ってくるのはいつ?」

「今日は向こうに泊まるから、明日の夕方だね」

「わかった。―ったくも~、お父さんはどこ行ってるのかしら!手伝ってほしいのに!」

 ωは父に口止めされているので言えませんが、ω父は魔王と飲み会中です。

 シークは玄関のドアを開けました。

 予想通り、四人はそこに立っていました。

「おせーぞω!!」

「あの時も、ωが一番遅かったな」

「時間にルーズなのは良くないのよ!」

「…そうだよ」

 口々にωを責めますが、ωがちらりと時計を見ると約束の時間より5分も前でした。

「…みんなが待ちきれなかっただけじゃん」

「う、うるせーっ」

 αは顔を真っ赤にします。

 何を勘違いしたのか、ななが鼻血を流します。

 みずきは慣れた手つきでポケットティッシュを取り出します。

 ρは知らん顔です。

「―ん、ごめん。じゃあ行こっか」

 ひとしきり騒ぐと、ωはクスクスと笑いました。
 今頃、あの洞窟で、ルナはそわそわしながら自分たちを待っているんだろうな―そんなことを考えると、自然と笑顔になりました。

「じゃあ、行ってくるね!」

 お母さんに声をかけ、ωは玄関から一歩足を踏み出しました。

「…あ、ω!!」

 直後、お母さんがωを呼び止めます。

「今さらだけど、その友達の家ってどこなの?」

 ―五人は顔を見合わせると、小さく笑いました。

 ωは答えます。

 


「3丁目!!」