3丁目までの冒険 9

「お~ついに」

「ついに来たのね」

「やったー!!」

「寄り道ばっかりだったな」

「…うん」

『3丁目到着ー!!』


 五人は拳を天高く突き上げました。

 そう、ついに、やっとのことで3丁目に到着したのです。

「…う~ん、でも」

 ωは晴れやかだった笑顔を僅かに曇らせます。

「思ったより、何て言うか」

「…田舎」

 みずきは端的に言いました。もう少し“言葉に気をつける”ことを勉強したほうがよいのではないのでしょうか。

 しかし、みずきの言葉を否定できないのも事実なのでした。
 西洋風のオシャレな町並みを期待していた五人でしたが、実際の3丁目は、町と言うよりは村に近い自然たっぷりな所でした。

 白亜ではなく、木で作られた家。

 石畳ではなく、地面が剥き出しの道。

 それはそれでよい雰囲気を醸しだしてはいるのですが、想像と全く異なる分だけ、落胆の度合いも大きいのです。

「いい所じゃねぇか」

「空気うまーい!!」

 ρとαは喜んでいます。

「私も、素敵な所だと思う。―けどね」

 ななは拳を震わせます。

「こういう所って、おじいちゃんたちしかいないのよ(断定)!!私、最近美少年カップルに恵まれていないんじゃないの!?」
 じっとりと音がしそうなほど、ωとαを恨めしげに見ます。

「…ここで、あなたたちの仲が発展することを神に祈るわ」

「そんな煩悩の塊なんて聞き入れてもらえないと思うよー」

 ωは笑顔で毒を吐きました。

 なながキーッと金切り声を出します。

「…」

 みずきはそんなななを、いつものように黙って見つめているのでした。

 五人は3丁目の住民に頼んで、民家に泊めてもらうことになりました。

「孫ができたみたいで嬉しいなぁ」

 家主の老夫婦はそう言って、五人を快く迎えてくれました。

「ありがとうございます」

 ωはきちんとお辞儀します。

 おじいさんはωの頭を撫でると、五人を居間に案内しました。

「ゆっくりと寛ぎなさい」

 五人をソファーに座らせ、老夫婦は一旦居間を離れました。

 することがなくなり少し退屈になってしまった五人は、たまたま電源がついていたテレビに目を向けます。

 ニュース番組でしょうか、新人キャスターが緊張した面持ちで事件を伝えています。

 チャンネルを変えるのは気が引けるのでそのままぼんやりと見ていると、速報が飛び込んできました。

「速報です。“赤の鉄槌”一味が今日の正午、警察に全員逮捕されました。警察関係者によると、突然どこかから出てきたとのことです。なお警察は、一味の列車襲撃事件との関係も調べています」

「そういえば、列車に乗ってた人たち大丈夫だったかなぁ」

 ωはぼんやりと怪我をした乗客たちを思い返しました。

「ああ、乗客は全員無事だったらしいよ」

 おばあさんが答えました。手にはオレンジジュースのパックと紙コップを抱えています。

「なんでも、乗客の中に“七色の世界”団員がいたらしくてね。怪我した乗客たちはすぐ治癒魔法をかけてもらったってさ。さ、お飲み」

「いただきますっ!!」

 ガッツは紙コップにジュースを注ぎ、喉に流し込みます。

「もう一杯!!」

「はいはい」

 おばあさんは嬉しそうに目を細めます。

「かわいいねぇ。本当に孫のようだ。―どこから来たんだい?」

「2丁目!!」

「おや、遠い所から来たねぇ。2時間はかかるだろうに」

 …実際は、丸一日+半日以上かかりました。

「いったい何の用で?」

「ん…魔族、倒すため」

 αの声が急に弱々しくなりました。ルナのことを思い出したのでしょうか。

「魔族?」

「3丁目の近くで魔力が感知されたらしくて、魔族を倒しに行くことが決まったんだ」

「そうか。…でも妙だねぇ。私はてっきり、その魔族はもういなくなったと思っていたけど」

 五人は目を見合わせました。

「どういうこと?」

「大分前から、3丁目の近くで魔力を感じるっておじいさんが言ってた。―ああ見えて元魔術師なんだよ。でもここ最近は魔力を感じなくなったって言ってたから、どこかに行ってしまったのかと思ってたけど…ボケてわからなくなったのかねぇ」

 おばあさんは冗談めかして言いました。


「わけがわからない」

 与えられた部屋に入ると、ななは床に座り込みました。

「私たちは、魔族を倒すためにやってきたのよ?なのに、最近は魔力を感じないなんて」

「変だよね」

 ωは荷物を床に置き、うーんと伸びをしました。

「でも、森の動物たちが消えてるんでしょ?」

 

「それはそうだけど…もしかして魔族のせいじゃないんじゃない?」

「それはない」

 ρはキッパリとルななの言葉を否定しました。

「森の動物が姿を消し、大人たちが調べたところ魔力が確認された。…これは事実だ」

「魔術師のせいかも知れないじゃない!」
 ななは怒鳴るように言いました。

 ρは冷ややかな眼差しでななを見つめます。

「…冷静になれ」

「なれないっ!!だって」

「人間と魔族の魔力が本質的に違うことくらい、お前が一番よくわかっているだろ」

 ρの言うとおり、その二つには決定的な違いがあります。魔族は、闇の力を増幅させて魔力として操ります。対して人間は、体にもともと眠っている魔力を呼び覚まして使うのです。

「それに…一人だけつらいと思うな」

 ρの言葉に、ななは肩を震わせました。

「…私は、ルナを倒すなんていや。ずっと考えていたけど、どうしてもルナが悪い子だとは思えないの」

「…」

 みずきはポケットティッシュを取り出しました。それを受け取り、ななは涙を拭います。

 部屋を沈黙が包みます。

 最初に沈黙を破ったのは、やはりαでした。

「あーっ!しんみりするな!そんなこと考えたってしょうがないだろ!?」

「え…」

「倒したくないなら倒さなきゃいいじゃんっ」

 αはフンッと鼻を鳴らします。

「俺はそうする!明日森の洞窟に行って、ルナがやっぱりいいやつだったら戦わない!!」

 なんて単純明快。

 しかし、その答えは誰もが考えつかなかったものでした。

「―うーん、そっか」

 ωはクスクスと笑います。

「そうだよね。行ってみなきゃ始まらないよね。…じゃあ明日は、ルナに“会いに”行こう。また会いたいって言ってたし」

 ωはななに目を向けます。

 ななはしばらくポカンと口を開けたままでしたが、やがて綺麗な微笑みを浮かべて頷きました。

「そうね」